夜のあいだは、あなたのものでいてあげる
ドレスの滑らかな手触りは欲望を掻き立てたけれど、知らない体のような気にもさせた。
はやく脱がせてしまいたくて、指が焦っている。
土方の手がドレスの裾をたくし上げる、バックシームの、黒いパンティストッキングはすごくいやらしい。
よくよく見れば男の脚なのだけれど、その先は細いヒールに支えられているのだから、勘違いも仕方ない。
「だめです、ねぇ」
「なんで」
熱い息をすこしずつ吐くのでさえ、もう限界。
土方は、山崎の下着の上から手をはわせて、両足のあいだの熱にふれた。
「いや…っ」
膝を震わせながら、懸命に手をはらおうとする山崎は、やめて、を繰り返す。
「つれねーなァ、公務員の安月給で高級娼婦抱けるなんざ、一生で一度きりかも知れねーのによ」
土方の右手は腰の曲線をたどっていく。たわわにふくらんだ胸の手ざわりは、見た目ほどやわらかくはなかった。
がっかりするより見事なつくりに感心してしまった。
俺なんて知ってなきゃ、うっかりだまされちまうんだろうな。
「お代まだいただいてないですけど?」
「…あ、悪ぃ、俺今二千円しか持ってねぇわ」
「あはは、なんですかそれ、おっかしい…」
ふき出してしまった山崎につられて土方も笑った。豪華すぎてうそくさい部屋にはしゃいだ声が転がる。
流されたくなって山崎はキス仕掛けた。積極的なキス。土方は翻弄されるふりをして、舌先で山崎のくちびるをくすぐった。
ふふ、と声が漏れる。よろめきながらベッド進み、ふたりで倒れ込んだ。
「副長ひどい顔ですよ。くちべに、つけちゃいました」
土方の口元をぬぐった指先は、シャンパンベージュのマニキュアが控えめに輝いている。派手な色ではないけれど、美しいしよく似合う。
「もっとつけてくれ。くちびる以外のとこにも」
山崎のまっ赤なリップはみだれていて、卑猥でとびきり可憐だった。
土方は上着を脱いで、スカーフをほどく。はだけたシャツのままで、ドレスの危うげな細い肩ひもを、するり、落とした。
そのまま膝たちにさせて、ドレスもショーツもパンティストッキングもはぎ取った。
今、山崎の肌を隠しているのは、黒のコルセットだけ。
ぞくぞくする。そそられる。
土方は、偽物なのは百も承知で、はちきれそうな胸を揉んだ。
おわり
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