したいしたい
二年も前の書類なんて今さらどうして必要なんだろう面倒だなあ、という本音が、のどからひゅるひゅる出そうなのだけれど、山崎はそれをぐっと飲み込んだ。
昼食あとのこの時間はただでさえ何もかもが億劫で、できれば隠れて昼寝をしたい腹ごなしにミントンしたい。ああ、したいしたいしたい。
しかも非番なんですけど、なんでおれなんですか、ひとりで探してくださいよお。なんて、しかし言えない逆らえない。資料庫はしめっぽい古い紙の匂いに満ちていて、ちょっと息苦しくなった。
「うわっ、すごいほこり」
「おまえ、時間見つけて掃除しとけよ、今度」
「ええー」
はやく昼寝したいミントンしたい。非番なのにもかかわらず、朝から原田のおつかいや沖田の頼まれものでずっとばたばたしていたのだ。外はせっかくのいい天気。だけどそんなに不満じゃないから困ったものだと思います。だって白昼堂々ふたりきり。
「棚の上ですかねえ」
「まじかよ……仕方ねーな、おまえこの台しっかり持っとけ」
「はいよ」
背の高い土方が背伸びしてようやく届くくらいの棚がぎっしり奥まで詰まっている。それなりに大きな事件は規則正しく並んだ資料の綴りにあるのだろうけれど、こまかいものまでは山崎も把握していなかった。日付けごとに綴じて箱か何かに入れてあるとは思う。まあでもそれが、どこにあるかと聞かれてもそうすぐにはわからない。当然だ。事件は毎日毎日あきもしないで起こるのだから。
「ごっちゃごちゃだな、まったく。わかりゃしねえ」
山崎があごを上げて、見上げたらきゅっと引き締まった土方のお尻。題の上に立ったまま、ばらばらと古い紙をめくって書類をあらためているらしい。
おしり、無防備、魅力的。ちょっとだけ、頬擦りとかしてみたら、ねぇだめですか。
「ひっ、うわわわ」
ばっさばっさ落ちてくる紙の束になぎ倒されるようにして土方は、山崎の真上に落っこちた。急に尻をなでられて飛び上がってしまった。案の定山崎は、思いっきり殴られた。蹴られた。罵られた。
「何すんだおまえ!」
「すす、すみません……他意はない、です」
「ハッ! おまえ、ひとの尻さわっといて他意はないってそりゃあ、どういう了見だ!」
「ほんの出来心なんです。すみません」
恥ずかしくなっていたたまれなくなって、ちょっとこれは逃げるしかないな、と思った。山崎の逃げ足ははやい。立ち上がって、右足を踏み出しかけたところに、書類で滑ってあえなく失敗。
「きゃっ……!」
組み敷くかたちになってしまった。どうしようどうしたらいいですか。
土方は下からつめたい視線で見上げる。山崎は目のやり場もなくうろたえている。
「自分から仕掛けといておまえ、その顔はねぇんじゃねーの」
泣き出しそうな、困り果てた顔だった。有無を言わせぬ大胆さで迫ってくれてもいいのに、と土方は思う。これはこれで、このまま最後までいかねば午後の仕事に支障をきたすと思われるくらいに、充分欲をかき立てるのだけれど。
「悪かねえな、下も」
「えっ」
「ばっか、そういう意味じゃねーよ」
ますます山崎はうろたえる。土方もわりにしどろもどろ。
「し、してみますか? おれ、痛くしないように、がんばりますよ」
「いい、いい、いい。ぜったい無理、勘弁してくれ」
「わがままですねぇ」
気持ちいいのに。でもこれは秘密のままのほうがいいです。どんな具合か知られたら恥ずかしくて生きていけないかもしれない。それはもう、昼夜を問わず迫って押し倒して抱かれたくなるくらいに、まあえっとその、いいんですよ。
山崎は、つっぱった腕をくずして、土方の耳元に顔をうずめた。またがった脚のあいだに土方の膝がぐりぐり押し付けられるから、はやくも息があがってしまう。
「出来心ってなあ、はは、黙っといてほしかったら、言うこときけよ」
「……はいよっ」
昼寝したいミントンしたい、よりもっと強い、したいしたいしたい。
これから出来心の続きをします、だってほこりっぽい資料庫で、白昼堂々ふたりきり。
おわり
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