こんな恋は初めてだから、やさしくするのも難しい


甘えてくれよ

部屋に呼んで仕事をさせて、いたずらしてたら本気になった。
そのまま布団に誘い込んで、腕のなかから帰さなかった。

事の後、山崎は決まっていつもよそよそしい。他人行儀でおとなし過ぎる。
土方は、今日こそ嫌われたんじゃないか、と内心はらはらしていた。
たしかに今夜は、いいや今夜も、思い当たる節がある。
ふれたら最後、いつも夢中になって歯止めが利かない。嫌とは言わない山崎の、どこまでがほんとうなのかは測れない。
二度目にはたしかに涙声だった。

「え、あ、副長?」
「いいから」
山崎の頭の下に腕を差し入れて、ほとんど無理やり腕枕をした。女にも今までしてやったことはないのだけれど、なんとなくそれは男の十八番のような気がしていた。
「あの、もう休まれますよね。俺そろそろ部屋に、」
「まだいろよ」
承知の上とは言っても男の体、つらいに決まってる。だからなんとか埋め合わせをしてやりたい。
それも勝手な話だけれど、土方にしてみればこんな時くらい、やさしい男になりたいのだった。
しかし情けないことに、左手がだんだんしびれてきた。まだ四半時も経っていない。 剣で鍛えた腕もこれじゃあ、まったくの役立たずだ。
土方は、気づかれないように手を動かしてみる。それでもしびれは治まらないし、だんだん感覚も鈍ってきた。
ここが男の正念場。
「重くないですか?」
「いいや、まったく」
どうにか意識を逸らそうと、跳ねた髪の先をいじってみたり、肩を抱いてみたり、まったくせわしない。 指の先が冷えてる気がしてきた。それでもなんとか辛抱を続けている。
口が裂けても疲れたなどとは言えやしない。

「あ、あの、もういいですよ?」
「あ?」
「…お気持ちは嬉しいですけど」
そう言われたら、しびれてたって感覚がなくたって、やめるわけにはいかなかった。
「なら黙ってされてろ」
朝までだって腕枕をしてやれるような懐深い男になりたい。だから、できればもっと甘えてほしい。
「でも」
「…なんだよ、嫌なのか」
「いえそんな! でも、緊張しちゃって…落ち着かないです」
行燈の弱いあかりが山崎の申し訳なさそうな頬を照らしている。
「そうか」
落ち着かない、か。
今きっと俺は傷ついた顔をしていて、山崎からはそれがよく見えるんだろうか、と土方は思った。
「しびれちゃいました?」
「んなわけあるか、ばか。鍛えてっからこれくらい、なんでもねーよ」
「ごめんなさい」
「なあ、おまえ…俺のこと嫌いか?」
山崎は驚いて、目をぱちぱちさせている。今夜は思いがけないことがたくさん起こってしまって、まだじんわりぼうっとしてる頭でどうにか考えようとするのに、どうしていいのかわからない。
「なんで、ですか?」
「いや、ちっとも甘えねーし、ひっつくのも嫌がるし、なんも言わねーし、さ。嫌なんだったら言えよ」
口調は思いがけず、すねた子供のようになった。山崎とのやさしい恋は、百戦錬磨の土方を初心な少年のこころにさせる。
じれったくて、もどかしい。
「そんなこと、あるわけないじゃないですか」
「さっきは悪かったな。ひどくしちまって。体、平気か?」
山崎はゆっくりうなずいた。最中のことが思い出されて気恥ずかしくなる。
「嬉しかったです。副長がちょっと今日は、夢中になってくれてるみたいだったから。だから、疲れてるのかなーって思って、なのに気を使ってもらっちゃ悪いし」
もぞもぞと布団にもぐって納まりのいい場所を探すと、土方の胸に顔を埋めた。
「きっと副長のこと好き過ぎるのがいけないんです。あんまり男前なことばっかり、しないでください。もっと好きになっちまう」
眠そうでやわらかい声。山崎は、ちょっと膝を曲げてちいさな子供みたいに土方の寝巻にしがみついた。
「望むところだ」
偉そうに言ったけれど、ますます好きになってしまったのは間違いなく俺の方だ、と土方は眠りに落ちる途中で思った。

おわり
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